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2023 年 11 月 21 日(火)
カタミチカラ(ラクルイノヨルニ)×篠塚将行(それでも世界が続くなら​対談形式インタビュー

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テラ♡メロディ(以下、テ)「本日はよろしくお願いします。まず、先日のスリーマンを終えて思うことを教えてください。」

 

篠塚将行氏(以下、篠)「あの日はリリースツアーファイナルだったよね。ツアーはどこに行ったの?」

 

カタミチカラ氏(以下、カ)「名古屋、広島、京都、大阪、新潟、つくば、と月 1 本のペースで回ったので体力的に厳しいとかはなかった。出会いはもちろん、10 年ぶりにようやく対バンできたとか、再会が結構あって、続けてきて良かったと思った。それを経て、初めてのフルアルバムのリリースツアーファイナルで 10 年越しの夢が叶って、心底いい日になった。

 

篠「CIVILIAN、それでも世界が続くなら、ラクルイノヨルニのスリーマンのことを一番最初に話していたのはいつだった?」

 

カ「コヤマさんが CIVILIAN をやる前のバンドからずっと追いかけていて、対バンとかもしていたけど、コヤマさんはどんどん上に行ってしまった。それせか(これを読んでくれている皆さんは分かっていると思いますが「それでも世界が続くなら」のこと。 以降、それせか表記が多くなります)はちょうど 10 年前に弾き語りでリリースしたアルバムのレコ発にそれせかに出てもらって。 その頃に話していたことを先日の打ち上げで思い出した。その時から、それせかと CIVILIAN と一緒にやりたいと考えていた。その後、5 年前にそれせか活動休止前のそれせか×CIVILIAN のツーマンの OA をやらせてもらった時に、改めて同じ土俵でやりたいと思った。」
 

篠「あの日の OA は仮というか。その時点で最初にスリーマンの話を聞いてから 5 年経っていて。ラクルイもなくなるのかどうかというタイミングだった。」
 

カ「そのひと月前にチェン(ラクルイノヨルニ Dr&Cho の堀田春のこと)が偶然加入して、あいつのそもそもの夢がそれせかとCIVILIAN と一緒にライブをやることだった

 

篠「OA というかたちではあるけど、加入してすぐのライブで夢が叶ってしまった、と。」

 

カ「叶っちゃった(笑)」

 

全員「笑」

 

篠「チカラが言っていたスリーマンの夢が、ジストニアのこともあったし、ラクルイはそんなに動く気配もなかったから、ずっと叶わないままなんじゃないかと。自分のバンドも活動休止することになって、置き土産じゃないけど、一度 OA でもいいからやってくれ、いつかやってくれよ、と。たぶん、誘った時はそう思ってた。」

カ「めちゃくちゃ思惑通りです(笑)。あの時はあくまでもOAだったから、テラメロ(ラクルイノヨルニ Ba のテラ♡メロディのこと)も含めて三人でスリーマンをやろうと、ライブ後すぐに話した。その後、来年の目標や動き方を毎年話し合うたびに、そのスリーマンの話は必ず話題にあがるんだけど、今はまだやれる力がないとずっと見送っていた。今回は、既存曲も含めた初めてのフルアルバムをリリースすることになってツアーも回ります、そしてツアーファイナルはどうしようとなった時に、ここでやる以外はない、やらなかったら次は何年後になるか分からないということで腹をくくったというか。」

篠「実際、腹をくくってどうだった?」

 

カ「腹をくくったつもりで、決まった時はめちゃくちゃ嬉しくて舞い上がってたのに、日を追うごとにプレッシャーが強くなって怖くなってきて。「この半年で何ができる?」とずっと意識しながらやってきたけど、一週間前は精神状態がかなりまずくて仕事も手につかないし、やべえやべえ、と。当日ライブハウスに入っても変わらなくて。それせかのライブと MC で本当の意味で腹をくくれたという感じだった。」

 

篠「あの日はトップバッターだったし、ラクルイしか見てないライブをしていたかもしれない。コヤマくんはああいう人だから音と姿勢でみせてくるのは分かっていた。自分もその方が得意な気はするけど、過去に出演したイベントでそういう話は一切なしでイベントはそっちのけで自分たちのことばかり話していたバンドがあって。今思うと、普通のことだし、気持ちもあったんだろうけど、俺はさみしく感じてしまった。コヤマくんもチカラもそういう思いを話すタイプではないから、なぜ今日この 3 バンドが集 まったのかをトップバッターの俺が話さなければ始まらないのでは?というプレッシャーみたいなものもあって。俺らは対バンを しているだけの付き合いでもないし、誘ってもらった恩義もあったり。そういうことは考えずに全力でライブをやるべきか迷ったけどね。もちろんライブは全力でやったけど、やっぱり人として、友達であることを選んじゃったよね。

 

カ「いつも楽屋とかでめちゃくちゃハッパをかけてくるじゃないですか(笑)。楽屋だけじゃなくて今までもステージ上で伝えてくれることもあったけど、こないだはライブそのものでも MC でも、俺らだけではできなかったドラマができて。それに応えなきゃと思ったし、俺はそういう日になったと思う。SNS では、3 バンドの関係性を知ることができて、その場に居合わせることができて良かったという反応もあって、改めてやって良かったと思った。すごく助かったし有難いし、やっぱり(それせかが)大好きだと思った。」

 

篠「それは嬉しいね。(自分たちのライブが)あれで良かったんだろうか、というところもあったから。」

テ「良かったですよ。しの君は基本的にそんなに MC しないじゃないですか。」

 

篠「しないね、日によっては全くしない。」

 

テ「話してくれたのがすごく良かった。」

 

篠「見に来てくれた人が、そういう関係性を知らないまま、なんとなく想像するだけになるのも嫌だった。俺たちがラクルイを喰うことも望んでいなかったというか。獅子的に殺しにかかっても良かったのかもしれないけど、友達の方が勝っちゃったというか。

あの日のチカラは甲子園みたいな気合いの入り方で今までに見たことがなかった。いつもは飄々としながら鬱々としてる人だもんね(笑)」
 

カ「あんまり覚えてない(笑)」
 

テ「この人の緊張感とか感情がよく分からないんですよ、分かりにくい人で。」

 

篠「自分の感情を悟られないように生きてきた癖がついてるんじゃない?相手に心配かけちゃうとか考えてそうにみえる。それなのにあの日は溢れ出ちゃってたから。」
 

カ「笑」
 

篠「ライブもものすごかったじゃない?人生そのものを切り取っていたようなライブというか。」

 

カ「無心ではないんだけど、あの日は全部出し切らないと、あの日も今までやってきたことも無駄・・・無駄というかケチが付いちゃうというか。篠さんとコヤマさんの言葉も、それせかと CIVILIAN のライブがあったし。」

 

篠「あの口数が多くないコヤマくんが、最後の MC で「自分たちも長い間バンドをやってきて、たくさんのバンドがいなくなっていった。また会おうという約束を本当に果たせる人は多くない。俺には想像ができない苦痛があったと思うけど、今日もう一度再会できて、ここまで続けてきたことを心から尊敬します。」と話していて。」

 

テ「そんなこと言ったんですか!?」

 

篠「コヤマくんが何も言わずに終えるわけがないと思って、チカラに「行ってこい」って言って。」

 

カ「しのさんが背中を叩いてくれてフロアに出たら、MCでそう言ってくれて無性に嬉しくなった。コヤマさんがそう思っていてくれて、覚えていてくれて良かった。」

 

篠「青春ドラマだよ。」

テ「動画残したかったな・・・」

 

カ「あれは嬉しかった・・・」

篠「俺はあの日のライブを見て、三人がどう思ったかは分からないけど、このご時世に逆行するような集大成のフルアルバムをリリースして、ブッチャーズやブランキーのレコーディングをしていた日本トップレベルのエンジニアである南石さんにミックスをお願いして、音源として本当の意味で納得がいくものを目指して作った意味が分かるし、時間をかけた意味もあると思った。チカラの十数年に及ぶ夢が叶ったり、バンドにとって大きなターニングポイントになるような日だったんじゃないかな。ただ、いつだったか四くん(テラ♡メロディのこと)に、「チカラくんは今年で芽が出なかったらやめるくらいの気持ちらしいので頑張ります、 続けて欲しいので何とかします。」と言われたこともあって、やめようと思わなくても、もしかしたら燃え尽きてしまうんじゃないかとも思った。たくさんのバンドが燃え尽き症候群になってしまった姿を見てきて、ラクルイにはそうさせたくない、もっとできると思ってほしい、という気持ちがあった。そういう思いで実際に見たライブがとてつもなく良くて。走馬灯みたいなライブだったけど、もともとそういう曲じゃない?文学的で、俺は辛いとか悲しいとかを明確にいう歌詞ではなくて、その時の情景を切り取 って受け取ってくれた人が、こういうことかも、と察するような曲というか、映像が見える音楽だと思ってる。ただ、難しいのは同じような苦しかったり悲しい境遇になったことがあることがある人にしか見えない情景で、この走馬灯は見えないんじゃないか、 と。」

 

テ「あの日は運転をお願いしたスタッフがいたんですけど、ライブ帰りの車の中で、「ラクルイだけではなく、それせかやCIVILIAN が King Gnu のような存在になる世の中はヤバいよね」と話をしていて。」


カ「・・・・・笑」

 

篠「こういう音楽を理解できる人がたくさんいる状況はすごく不幸なことじゃない?世の中としてヤバくて、理解できる人が少な いことは社会としては良いことで。ただ、世界のどこかにはみ出してしまう人、そういう音楽を求めている人はいて、それを探し に行くツアーだったんじゃないかと。(チカラが)バンドを結成した当初は、俺は分かるけど分かってもらえるかという不安はあっ た。チカラと同じ年代とか、住んでいる地域まで同じでなければ分からないんじゃないかという不安。俺とコヤマくんは情景より心理描写に近いからそういう不安はないんだけど、チカラはマイノリティの中のマイノリティだから大丈夫なのかと。 それなのに本人たちは「どうしたらバンドをやっていけますかね」と悩んでいて、そりゃ悩むよな、気付け、と(笑)

テ「気付いてはいるんですけどね。」
 

カ「まあね。」

 

篠「でも、あの日のライブを見て初めてそういう気持ちが消えて、これは誰が見ても良いだろう、これが伝わらない人は人じゃない、人の心がない、そのくらい鮮明に感じた。このツアーの本数とかは正解だったなと思って。ある種パンクバンド的に月20 本やったらその濃度が保たれないんじゃないか、チカラはそれが日常になってしまうと。」


テ「ホタメロ(ラクルイノヨルニ Dr&Cho の堀田春のこと)は濃度上がるかもしれないけど、俺は無理だな。」

 

篠「ああいう心理状態でやるライブを月 20 本やると嘘になっちゃうよ。慣れて濃度が減っていってしまうから。そういう意味では今で良かったんじゃないか。自分たちでよく遅刻してきたバンドと言ってるけど、遅刻には意味があったし重みも出た。今だからこそ振り返って思えることもあるだろうし。そういうことは自分でも感じたりするの?」


カ「正直なところ、2 年前くらいにこのペースでバンドを続けるのはきついから次の年からペースを落としたい、ということをテラメロとチェンに個別に伝えたことがあって。精神的に疲れて保てなくなってしまったんですね。バンドを続けるのはお金もかかるし、自分の環境の変化もあって。そして、この 1,2 か月くらいでその気持ちが強くなってしまって。打ち上げで話しましたけど、今日で終わっても良い、もう無理かもと思っていたし、どう終わりを迎えるべきかとまで考えてしまっていたんですけど、しのさんに「ここはゴールではなくてスタートだ」と言われて、実際に終わってみると、始まりだと思う事ができて。どうしたらまたこういう日をまた迎えられるか、どうしたら続けられるかという考え方に変わった。活動のペースとか色々考えることはあるんだけど、続けるためにはどうしたら良いのか、という気持ちになった。あの日があったから、まだ続けられる、続けなければいけないな、と。」

 

テ「なるほどね、レコーディング中の曲が 3 曲あるんですけど(笑)」

 

カ「それがリリースできなかったとしても、くらい思っていた。あの日がなかったら終わっていたと思う。全く燃え尽きることはなく、思い返すと救われた、なと。


篠「それはすごいね。四くんも同じなの?」

 

テ「僕は燃え尽きるということはないと思っていて。曲を作っている人とそうではない人の差なのかもしれない。ただ音楽を続けたいというだけで。」

 

カ「フロントマンだし、曲を作っているし、言ってしまえばメンバーの人生も背負っているという感覚で、ずっと重く考えていて、 だから頑張らなきゃと思ってたんですけど。」


篠「本当に分かる、俺も一緒(笑)」

 

カ「ただ、テラメロもチェンもこういう性格だし、愉快であったり不愉快な仲間でもあるもんね。

 

テ「えっ?
 

カ「不愉快な仲間でもあって・・・(笑)、少しラフに考えられるようになった。」

篠「それで良いのかもしれない。明確にやめようと思うのは、音楽に限らずなんだけど、自分が背負っているものを重くとらえて いて、このまま歩いていくのは無理だと思う時じゃない?続けられている人は、また違ったりするのかもしれないと思っていて。 たとえば、有名になるとか売れるとかではなくても、約束が果たせるとか、もう会えないと思っていた人に会えたとか、そういう 報われ方があると続けていこうという気持ちになるよね。」

 

カ「それが一番大きいですね。もはや売れるとは思ってないし。

 

テ「えっ?

 

カ「売れないでしょ?」
 

テ「絶対売れないよ。」
 

篠「笑笑笑」
 

カ「大なり小なり、やってたから出会えた人も再会できた人もいるし、俺が続けられてる理由はそれが大きい。」

 

篠「音楽をやっている時でないと会話ができない人っているじゃない?それが対バンの人なのかライブハウスのスタッフなのか、 普通の会話はできるけど、ドロップアウトしたら同じ目線での話はしにくくなる感覚がある。やめた相手に対しても、音楽の話をふると傷つけてしまうかもしれないし、逆もあるだろうし、今だからこそできる会話があるもんね、音楽に限らず。」

 

テ「コーヒーお代わりいりません?300 円みたいですよ。」

 

篠「飲んどこう。」

(カタミチカラがお花を摘みに席を外す)

 

篠「人生をかけてやってきたことで、まだ続けようという瞬間があるのなら、続けた方が良いと思う。」

 

テ「単純に、やるのが苦痛になったらやめたら良いと思うんです。僕はシンプルに考えていて、生きていて楽しいことって、例えばしの君だったらゲームとか本とかサウナが好きなのかもしれないし、僕はお酒を飲んだりバンドをやっている時が一番楽しいの で、それをやめるという気がない。でも、そうじゃない人は休んでもいいからやりたくなったら半年に一度でもやればいいじゃんと思う。けじめをつけたい人がすっぱりやめる、という気持ちになるのは分かるんですけど。」

 

篠「ボーカルはあるかもね。半端な気持ちで作ってない人が多いし、自分の人生で起こった大きな出来事を切り取って曲にしたりするから、楽しいからなんとなく歌い続けるというのはけっこう難しいと思う。」

(カタミチカラがお花を摘み終わって席に戻る)

 

篠「四くんはやめる必要がない、ということを話していて。でも、曲を作る人間は楽しいからという気持ちだけでは歌えないとい うか。さっき話していた生活・金銭面や今後のことを考えた時に重荷だと感じてしまうことがあるだろうしね。」

 

カ「そうですね・・・でも、一番の要因はやっぱり喉ですね。歌うのが辛いんですよ。日によって感覚が全然違うし、思うように歌えないのは辛いし怖い。毎回それを抱えながら月に何本もライブをやるというのは心が擦り減るんですよ。歌うことが楽しかったら、もっと続けたいと思うんでしょうけど。」

 

篠「続けられる人はそういう人が少なくないと思う。」

 

カ「売れてる売れてない関係なく、ライフワークとして音楽を楽しんでやっている人が羨ましい。自分が作っている曲もそうだけど、 歌うこと自体が毎回きつくて、続けるか否かと考えてしまう。」

 

篠「チケットを買って見に来てくれる人がいて、もし俺が急に歌えなかったら不義理じゃないか、約束を果たしていないじゃないか。裏切るかたちになってしまうのが辛い。」


カ「そうなんすよ。今日も 100%はみせられなかったというライブが続くと心が折れていくし、翌日は頭を抱えるし。」

 

篠「もちろん、音楽を含めたアートはそう考えながらやっていくものだと思う。クオリティを考えるし、来てくれた人のことも考えながら自分の気持ちを歌っているし。白か黒かじゃなくて、色々な気持ちが入り混じっていて。変な話だけど、チカラは歌えなくなる瞬間まで歌ってほしいという願望はあるのよ。見てる人間のエゴなんだけど。歌唱力の素晴らしさがエンターテインメントになっている歌手的な人っているじゃない?もし、その人の歌唱力が落ちたら、その歌唱力を楽しみにしてきた人に対して完璧な歌をきかせられなかったらアウトなのかもしれない。語弊があるかもしれないけど、ラクルイノヨルニはパンクバンドじゃん?歌えなくなるところから始まったバンドだから、仮に歌えなくなってもその姿まで含めてアートだと感じていて。 以前のように歌えなくなって絶望したのは分かるし、オーガスタからデビューの話がきたのは歌唱力も評価されていただろうし。 チカラはそれを捨てて、バンドだったら歌う量を減らせるかもしれないバンド形態にして、そうして始めた足搔きにも近いバンド で、俺から見ると歌えない人がやり始めたバンドという初期設定だったから、チカラが言う完璧なものをみせられないということにあんまり共感はできない。喉をぎゅうぎゅうに締めて歌うしかないじゃん?それでも思いが歌に乗っかっている姿がアートになっているというか、不謹慎な言い方かもしれないけど。エンドロールとかもそうだけど、あの曲を人前で何度も歌うことは苦痛なんじゃないか、少なくとも気持ちが良かったり楽しいことではないと思う。自分にとって大切なものを失わないための儀式とも取 れるんだけど、そもそもチカラの歌は、このバンドが始まった瞬間からすり減ってるよね、っていう。だから、すり減ったからやめたいというのは、それはそうだなとは思うんだけど、それはバッドエンドだという気がするけどね。最初から、あの曲を人前で 歌ってすり減らないわけがないのに、それを歌い続けてきた人がすり減ったからやめるというのはね。らせんの洋志くん(らせん。 a.k.a 上里洋志(Half-Life)のこと)も言ってたけど、すり減ってなきゃ嘘というか、チカラの歌はすり減って然るべきだと思うんだよね。すり減るのはめちゃくちゃ苦しいのは分かるんだけど、すり減るのは悲しいことなのかな?チカラが友人なり家族なり、これからの人生で大切な人が不幸にあってしまった時に、当然すり減って向き合えば向き合うほどすり減るけど、向き合って少しで も相手を楽にしたいと誰かを守ろうとしてそのために必死になることって悪いことだと思ってなくて。」

 

カ「確かに悪いことじゃないですね。」

 

篠「たとえばチカラがエンドロールを歌い続けて、その子のことを忘れないことは、誰かが覚えてくれていることは、もし俺がその死んでしまった人だったら嬉しいことだと思う。忘れてくれよとも思うかもしれないけど、その気持ちに対してはふざけんなよ、とは思わないし、ありがとう、と思う。チカラは出会った友人や大切なものをなくさないためにすり減ってきたんだから、仮に音楽をやめても、チカラの性格を考えると何をやってもすり減り続けると思うよ(笑)

 

カ「確かになぁ、そうなのかもしれない・・・」

 

篠「だから自殺しますと言われたらバッドエンドで、天寿を全うしてくれないと嫌だという気持ちにはなってしまう。歌えなくなってもそんなのは想定内なんだよ、こっちはと。届かないキーと気持ちよく出せない声で、それでも俺の心は肉体に負けないという気持ちであの言葉を歌ってほしいと思う。そういう意味でパンクバンドだと思っている。」

 

カ「感覚が崩れてきてる気はしていて、自分や今の環境を守る比重が少しずつ増えてきていて。」

 

篠「それは大人になるってことじゃん。良いことだよ。」

 

カ「でも、(そういう気持ちと音楽をやることを)上手く比例させられる人もいると思うんですけど、俺は反比例してしまって。音楽以外の比重が増えると、歌うことや曲を作ることを保てなくなってきちゃうんですよ。」

 

篠「俺はその話はそれ以上聞きたくない。気持ち的に聞きたくないのもあるけど、ラクルイを始めてから止まってないじゃん?人は失って初めて気付くよ。」

 

カ「ファイナルへのプレッシャーもあって、そういう不安定さが溜まりに溜まっていたのがあの日のライブの直前なんですよ。でもそれがあったから、自分の本当の気持ちと実生活とのズレに気付いて。」

 

篠「それはとても難しいよ。まだラクルイは三十代で、人生を語るには少ない年数じゃん。ヒットチャートにのぼるようなアイドル性とかそういう話になると遅いのかもしれないけど、チカラがやろうとしている人生を丸ごと歌にするような音楽からすると、 若過ぎるとも言える気がする。これは少し主題から逸れてしまうかもしれないけど、何かを失わずに積み上げていくことってできないものなのかね。できることなら、大切なものを失って生きていってほしくないじゃない?自分自身も大切な人も。(話は戻って) あの日のライブは、分かりやすい夢とか希望みたいなものを感じることはなかったけど、出会った頃の分かりにくい陰鬱さではなくて、前向きという言葉はハマらないんだけど、分かりにくいけど必死に生きて前に進んでいくエネルギーみたいなものを感じたんだよ。本人が終わるかもしれないという気持ちがあったにも関わらず、不思議なものだけど。」

 

カ「めちゃくちゃ繋ぎ止めてもらった感覚がある。」

篠「色々なできごとにね。」

 

テ「たまに思うのが、俺もしの君や他の人にも繋ぎ止めてもらったけど、果たしてそれは自分にとって良かったことだったのかなと。」
 

「俺も思うよ、分かる分かる。」

 

テ「ホタメロがみつかる前の話だけど、一度音楽をやめると決めたドラマーに声をかけていいのかな、とか。」

 

カ「俺は当事者として良かったなとは思う。飽き性の俺が 14 歳から曲を作り始めて、唯一続けてきたのが音楽しかなくて。人生の半分以上続けてきたことが自分から失くなると考えた時に、それは本当に俺なの?と考えることがある(続けているのは)俺が俺であるために、という部分もあるし。外的要因でふらふらしてしまうときもあるんだけど、それを繋ぎとめてくれたのがあのツア ーファイナルだった。」

 

篠「結局人間は弱いから、自分が決めたことを忘れたり必要なことが分からなくなったり、大切なものに気付かずに失って初めて気付いたりするじゃない?上手く言えないんだけど、俺は(チカラに音楽を)続けてほしいと思ってしまうな。」

 

テ「好きな人だったら、誰に対してもやめてほしくないと思うんじゃないですか?」

篠「人によるんだけどね。売れるためとか有名になるための手段としてやっている人は、何かをやめても別のことをやり始めるし。 でも、チカラは仮にラクルイをやめても、ギターは弾いてしまうし、曲も作ってしまうと思う。」
 

カ「そうなんですよね。曲は作ってしまうと思う。」

篠「自分の人生で唯一続けてきたもので、こんなに長期間誰かにイベントに出てほしいとか、歌ってくれてありがとうとか、求められたことって他にないじゃない。一つもない。誇れるかどうかは分からないけど、誇れるものはこれしかないというか。アイデ ンティティになってしまっているからね。もし活動が半年や一年に一度というペースになったとしても、なくなるということを想像するのが難しい。表立って解散するとなったら、覚悟を決めて人によってはギターを売ったりもするんだけど、チカラは弾くよなぁと思う。」


カ「音楽活動を辞めても弾いちゃいますね。」
 

テ「ギターは自信があるの?」
 

カ「ないない(笑)」
 

篠「もともと自信がある人じゃないからね。」


テ「(不本意だけど)ギターをやたら褒める人がまわりにいて。」


カ「全く自信はないね。」

 

篠「バンドマンのギターと、ソロで歌ってる人のギターは違うじゃん。一人でやってる人はリズムの安定感が強かったり。」

 

カ「ギターで鳴らしたい音は明確にあるんだけど、自分のギターが上手いとは思わない。」
 

篠「俺もそう。」
(少しの静寂)

篠「あの日は頭一つ突き破った感じもするから、ここで終わる必要はないんじゃないかという話は再度したい(笑)」

 

テ「とりあえず、ペースは落とすとしても終わろうとは思わなくなったということで?」
 

カ「うん。」
 

篠「俺は終わらなくていいじゃんと思う。」
 

テ「たとえば、来年新譜をリリースした後、少し休むのも良いと思うけどね。」


篠「そこで気付くこともあるからね。」

 

カ「それを許容してくれるメンバーでもあると思ってるから。ラクルイで作りたい曲はまだたくさんあるし。」

 

テ「三十代半ばで『渡し』みたいな曲を作ったわけじゃん。君が代みたいな。たとえば休んでいる間、もっとすごい曲ができるかもしれない。また歌いたい、バンドをやりたいと思えば再開すれば良いし、そのくらいの気持ちで良いと思う。」

 

カ「続けることが目的になりつつあるんだけど、ライブをやることをノルマのようにしたくないというか。(ライブを増やすと)さっき話していた濃度が薄くなるかもしれないし、やりたいことをやるために、表現したいことを表現するために、どういう活動をしていくかを一度話し合いたい。」


篠「ここの部分使えないじゃん(笑)。こんな話をせっかく CD を買ってくれた人が聞いたら絶望しかない(笑)」

 

カ「(笑)曲を聞いてもらうために、表現するためにバンドをやってるから、より伝えるためにどうしたらいいかを考えたい。」

 

篠「ラクルイはなんだかんだライブバンドだとは思うけど、何をするバンドかと考えると、やっぱり曲で何を歌うのか、だという気がして。そこに曲があって、表現があってプレイがあって。曲と気持ちが一番大切というか。」

 

カ「そうですね。元々大事にしてる部分だけど、もっともっと大事にしたいと思えるようになった。」
 

篠「そうだよね。」

テ「最後に、色々質問を考えてきてたんですけど、時間も余り残ってないので少しだけ聞いていいですか?いま、二人が一番聞い ている音楽は何ですか?」

 

カ「ハンバートハンバートかな。昔ハマッてて、最近また聞き始めてずっと聞いてる。企画の前は CIVILIAN とそれせかしか聞いてなかったけど(笑)」

テ「しの君は最近何かあります?」

 

篠「最近か、ないかもね。あんまり聞かないようにしているのかもしれない。聞いちゃうとこういうギター弾きたいとか、こういう曲が作りたいとか、インスピレーションを受けてしまったりするから、今はいったん距離を置いているというか。」


テ「もう 2,3 個良いですか?自分のバンドメンバーに思うことを聞かせてください。僕はトイレ行ってきます。」

篠「俺が先に行ってくるから。」
(篠塚将行氏がお花を摘みに席を外す)

カ「バンドメンバーに思うことってどっち?ネガティブなことかポジティブなことか。しのさん待った方がいいかな。」

テ「そうだね、待とうか。」
カ「めちゃくちゃ色々ある。なんだっけ、思うこと?」

テ「自分のメンバーに思うこと、あるいは相手のメンバーに思うこととか。ではどうぞ。」

(篠塚将行氏が戻ってくる、テラ♡メロディがお花を摘みに席を外す)

 

篠「四くんがいない間に話した方がいいんじゃない?」

 

カ「こういう関係性のバンドは今まで組んだことがなかったけど、単純「むかつくとか「何言ってんだろう」と思うことは多々ある。一緒にいて腹立つことの方が多いけど、それでも続けてるのは良いところも分かってるからで。テラメロは俺らができないことをやってくれるし、プレイヤーとして好きだし。チェンはドラムがすごく良くなってきているし、先天的に人を惹きつけるところがあって。尊敬とはちがうけど、俺にないところを持っているなと。もしバンドがなくなったとしても、たまに飲んだりはあるかもなぁ。」

篠「相棒というか相方というか、そういう感じなんだろうね。」

 

カ「しのさんは?」

 

篠「俺は、メンバーは友人だし、感謝しかないかな。好きだし。」

(テラ♡メロディが戻ってくる)

 

テ「カタメロとは真逆だね。」

 

カ「真逆だね、好きではないからね。

(テラ♡メロディが煙草を吸いに席を外す)

篠「なんだろうな、親友みたいなものがあるとしたら、あいつら以外はいないんだろうな。」

 

カ「友達と一緒にバンドをやってるみたいな。それがライブを見てても普段話していても強く感じていて。ラクルイを組んだ時は俺もそういうバンドをやりたいと思っていたんですよ。そうならなかったけど。あはは(笑)」

 

篠「なってるよ、なってるでしょ(笑)」

 

カ「こういう風に言える、たぶん本人がいても言える関係性は貴重だとは思う。」

 

篠「貴重だよ。言えないより言えて一緒にいられる方がいい。」
 

カ「前にやっていたバンドでは言えなかったりしたからな。」

 

篠「我慢して言うか言わないか迷ったりね。友人というより同じ目的を持つ人たちの集まりになることもあるからね。」

 

カ「それに比べると、ある種健全なのかなとは思う。」

 

篠「うちもそうだな。バンドに関係なく集まることもあるしね。」

 

テ「(ラクルイとは)違うなぁ。」

 

カ「違うねぇ。」

テ「こないだ打ち上げで初めて聞きましたけど、出会ったなれそめがそもそもバンドじゃないですもんね。」

 

篠「この話は死ぬほど長くなるからここでは語らない(笑)」

テ「最後に、カタメロにだけ質問を。先日のスリーマンで夢をひとつ叶えて約束を果たした今、次にしたいしの君との約束は?」

 

篠「5年前にした約束がこんなに重くなるとは思ってなかったね。過去から積み重なったものがあったんだろうな。四くんが約束させたい気持ちは分かる。」

カ「しのさんとの約束?」

 

篠「俺とだけじゃなくていいんじゃない?」

 

テ「CIVILIAN とでも、他とでも。」

 

カ「何年も前にそれせかとツーマンをやったことがあったけど、その時は全然拙かったし無我夢中で終わってしまったんだけど、改めて満を持してガチンコのツーマンがやりたい。


篠「それは CIVILIAN にも思うんじゃない?今度は 1 対 1 でやりたいというのはあるだろうね。あの日の続きのような。」

 

カ「あの日を一区切りにして終わってしまうのではなくて、もう一度続きがやりたい。」

 

篠「コヤマくんもやっと再会できたという感じだったと思うんだよね。やっと追いついた、ではないのかもしれないけど、やっとここから始まってくれるんだね、という感じがあったから。」

 

カ「これまでは同じ土俵にいるなんて考えられなかったけど。今も思えてないけど、それを全く感じずにツーマンをやりたい。改めて再戦、かな。」


篠「いいね、それは嬉しい。生きてまた会いたいな。」


店員さん「失礼いたします、閉店 15 分前になります」
 

テ「良い話がきけました。」
 

篠「ありがとうございます。」
 

テ「カタメロも次の夢があったということで。」
 

カ「そうね。」
 

全員「お疲れさまでした!」

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